現場レポート:次世代スギ精英樹「サガンスギ」(コンテナ苗植栽)研修

2022年3月16日

研修会の様子

林業女子会@さがの門脇恵(かどわきめぐみ)です。
今回は今話題の次世代スギ精英樹「サガンスギ」のコンテナ苗植栽研修のレポートをお届けします。

「サガンスギ」は佐賀県の林業試験場で50年以上かけて開発し、2021年に品種登録された次世代スギ精英樹を代表とした、4つのスギの品種です。
何がすごいのかというと、まず1番に収穫サイクルの早さです!これまでの林業の収穫サイクルは約50年でしたが、「サガンスギ」は約30年で収穫することができます。しかも、成長が早いだけでなく、木材強度も高く、花粉も少ない!と三拍子そろっているのが「サガンスギ」の良いところです。これは試験研究として植栽され、30年生以上に育ったサガンスギが現存し、植栽から収穫期までの成長過程や木材としての強度が実証されているからこそ力強く言えることです。
今回はそんな「サガンスギ」のコンテナ苗植栽の様子とともに、その魅力を紹介したいと思います。

「サガンスギ」のコンテナ苗

この日は佐賀県の林業技術職員や地元市職員、林業事業体等が集まり「サガンスギ」の試験地にコンテナ苗植栽を行いました。林業の省力化として近年活用されている「コンテナ苗」。植栽のための道具もいろいろあり、杭木にステップを付けた自作のものから、数万円する専用器具まで様々です。みなさん、いろいろな器具を試されながら、植栽されていました。コンテナ苗の根鉢の部分をきれいに植えられるようどうやって穴を掘るのかがポイントです。植栽後は苗がまっすぐに立つようにすると定着しやすいそうです。

植栽のための道具

「サガンスギ」は成長が早いため、あっという間にコンテナ苗用のコンテナでは支えきれないほど大きくなるそうです。どれくらい成長が早いのかというと、通常のスギが樹高3mほどになるのに約6年かかるのに対して、「サガンスギ」は約4年で樹高3mに達します。これは下刈りという林業の作業の中でも1番きつく大変な作業の大きな省力化につながります。

下刈りはスギが大きくなるまでの間、雑草が伸びることによって、苗木に日が当たらなくなるのを防ぐため、真夏の炎天下の中、日差しを遮るものがない環境下で草を刈る作業です。植栽をしてから5年目くらいまで毎年続ける必要があります。ところが、サガンスギの場合には4年目には樹高が3mになるので、通常5回の下刈りがだいたい3回で済むそうです! 下刈り作業の省力化は育林コストの削減にもつながるため、収益率もアップします。さらに、担い手不足を抱える現場の労働コストの削減にもつながります。山主にとっても現場にとっても嬉しいことです。

植栽の様子

植栽の様子

成長の速度が早いと通常は年輪幅が広くなり、木材としては強度が劣ると言われています。しかし、この「サガンスギ」は強度試験の結果、県内で普及している一般的な「スギ」よりも強度が高いことが証明されています。「サガンスギ」は、年輪幅は広いのですが、繊維の入り方に特徴があることで、強度が高くなっていると考えられているそうです。国内で最先端の強度試験が行うことができる、国の研究施設である森林総合研究所で、30年生以上の「サガンスギ」の製材品を用いて、曲げヤング係数(たわみにくさの指標)の測定と木材強度(折れにくさの指標)の測定を行っています。

スギのように育成期間が長い樹種における新品種の開発では発表と共に、実際の木材の現物が揃うことは、ほとんどありません。実は「サガンスギ」の元になった研究は1965年、今から57年ほど前に遡ることになります。佐賀県の林業試験場では、この頃からスギの人工交配をはじめ、約10,000種の個体を試験林で育成していました。

そして、1980年頃、今から40年ほど前に、約10,000種の個体の成長調査から109の個体に絞りました。その後、調査の信頼性を確保するため、109のクローンを1クローンあたり50本程度の挿し木を増殖し、約5,000本により設定した試験林での長年の現地調査結果から、109クローンを6クローンまで絞り込んだのが2015年のことです。それで終わりではなく、さらに現代の先端技術を導入し、遺伝子解析、木材の詳細な強度試験や立地条件などを加味した成長量の評価などを行うことで、成長、木材の強度、雄花量、挿し木発根率を総合評価し、最終的に次世代スギ精英樹4クローンに絞り込み、2022年の2月から「サガンスギ」としての苗木の出荷・植樹が開始されています。4クローンの個体を残したのは、万が一、何らか要因で、同一クローンの個体の生育等が一斉に阻害されてしまうなどの状況を防ぐためだそうです。挿し木増殖によるクローン個体は全く同じ遺伝子を持つことになるので、外的要因に対してほぼ同等の影響を受けることになります。種の安定性を保ち将来のリスクを減らすことも大切なことの1つです。

植栽された「サガンスギ」

それにしても、半世紀以上にわたる長い時間をかけて「サガンスギ」の研究開発が進められてきたことに本当に驚き感動しました。佐賀県民の勤勉さと真摯さを象徴しているようです。私は関東から佐賀県へ移住したのですが、佐賀県の方と触れ合う中で、物事に対して真摯に向き合う姿勢や最後までやり遂げる力に圧巻されることが何度もありました。「サガンスギ」の研究開発もそんな佐賀県の県民性の良いところの現れだと思いました。

「サガンスギ」の研究開発を担当している林業試験場の特別研究員の江島淳さん(研究開発担当)は、この研究について、先代たちの残してくれた貴重な試験林やデータを元に、本当に価値があるのかを疑い確認する研究だと話してくださいました。本当に成長が早いのか、本当に強度が高いのか、1つ1つ調べながら分析しているそうです。こんなに古くから研究しているケースは全国的にもなかなかないことです。人工交配による品種改良は農業の分野では一般的ですが、林業の分野では、個体が大きく成長するのに時間がかかるため、技術の導入が遅れていたそうです。佐賀県でこの研究がはじまったのは佐賀県が農業大国だったからなのではないかと江島さんは考えているそうです。実際にこの研究を始めた原信義さんは、佐賀大学の農学部で農作物の育種を専攻されていた方だったそうです。

江島淳さん(佐賀県林業試験場 特別研究員)

林業試験場で普及指導にあたっている山口光洋さん(普及指導課長)と松尾淳也さん(副場長)からもお話を伺いました。

林業試験場には現在たくさんの問い合わせが届いているそうです。山口課長は、まずは佐賀県内でしっかりと苗木を生産し、普及していきたいと話してくださいました。下刈りのコストも削減され、従来は主伐までに50年かかっていたところが、「サガンスギ」の場合には30年で主伐できるそうです。また、従来であればまだ枝打ち期間である10年生のタイミングで除間伐を行うことも可能です。将来性も高く、期待が大きいからこそ、しっかりと普及していきたいと心強い声をいただきました。

松尾副場長は、「サガンスギ」が林業の新たな意欲につながって欲しいと考えているそうです。多様な森づくりの1つの選択肢として、これから樹を植えるときに「サガンスギ」を選んでもらえるようにできたらと話します。建築や木材関係の方たちからはやはり木材の品質のことを聞かれるそうです。今までのスギより強度が高いことを試験の結果を見てもらいながらしっかりと説明し、実物の木材を見てもらうことで納得してもらえることは大きなことです。「サガンスギ」というブランドが1つ完成し、いつかエンドユーザーから「サガンスギ」の木材で家を建てたいと言ってもらえるようになったら嬉しいと話します。

山口光洋さん(佐賀県林業試験場 普及指導課長)

松尾淳也さん(佐賀県林業試験場 副場長)

成長が早く、木材強度が高く、花粉が少ない! 結果として、収益が見込め、林業の省力化も図られる。そして、主伐から再造林(新たに植栽し樹を育てること)の流れができることによって、森林資源の循環が進む。「サガンスギ」はこれからの林業界に新たな新風を巻き起こしそうです。私もいつか、自分の山を持って「サガンスギ」を植栽したいと思いました。これからの「サガンスギ」の成長に益々目が離せません。

お話を聞かせてくださった皆様、本日はありがとうございました。