今こそ、温故知新
「今こそ、温故知新」
この写真はTV映画「坂の上の雲』のロケにも使われた国指定重要文化財/近代化産業遺産の安積歴史博物館/旧福島県尋常中学校本館です。福島県郡山市にあります。
鹿鳴館風のみごとな洋風木造建築です。おまけにカンティリバーのバルコニーまである。仕口も日本の木造建築では絶対にお目にかかる事がない不思議な構造です。
下の左側の写真は3.11発生直後の崩落した廊下側の漆喰壁です。
ガラスもほとんど破損していたそうです。
しかし、建具や建具枠は壁の様にダメージは受けていませんでした。
それは壁の内側に張り巡らされ板が支えとなって、倒壊を免れたのかも知れません。
いわゆる板倉造りです。
新建材のない時代だから、他に選択肢がなかったから板を貼ったと言えばそう言えなくもありません。
今はこの板の変わりにプラスターボードという施工が簡単な偽木を使い、その上に漆喰ではなく紙や布を貼ってごまかす、まさにFAKEのオンパレードです。
学校建築が見積もり価格の高低によってのみ判断してはならないことを証明しています。
つまりコストは時間軸の判断を必要とします。必要な箇所には必要なだけの手間とお金をかける。
それが建築に強い生命力を注ぎ込む。これが公共建築のあるべき姿です。
ところでこの教室の机。とても興味深い点が二つあります。
一つは机の天板です。何とナラ材が使われていました。
楢と言えば比重も1に近く非常に堅牢な木です。今では品薄で高級材の一つです。
古来、座卓の天板等に多用されてきました。
硬くて傷つき難いからです。まさに適材適所。
もう一つは机の寸法です。幅は60cmで奥行きは32cmしかありません。
その頃の中学生が、と言っても今の高校生に当たる学生達が発育不全であった訳では無いでしょう。
そうではなく何かと過剰なサービスを求められ,挙げ句に甘えを増長させ崩壊寸前の現在の教育現場とは大いに異なる素朴な優しさに満ちた教育の現場を想い起こすべきです。
つまり高級材を使う変わりに広さについては我慢しなさいと言っている。
目にするもの手にする物から倫理観を養ってきた古き良き時代の教育をICTにまみれた今こそ見直さなければいけないと思うのです。少欲知足。
無駄を奨励し繁栄を築いてきた現代とは逆に倹約を旨としひたすら近代化に邁進した近代。
温故知新は今も新鮮に心に滲みてきます。
関光放浪記第1章より