佐賀市立小中一貫校富士校中学部を訪ねて
今回は老朽化により平成26年校舎一棟を解体し新校舎に改築された佐賀市立小中一貫校富士校中学部を訪ねた。
この学校がある富士町は脊振山系の西域に位置し古湯から熊の川に連なる温泉郷にある林業の町である。
そこに新しい木造二階建ての校舎が建った。
その校舎は森林に囲まれた景観に溶け込むように静かに立っている。
建物はそもそも建築家の独善の強要ではなく、あるいは自己顕示の具でもなくむしろ景観に配慮しあたかもその一部であるかのように謙虚なものでなければならないはずであった。
その佇(たたず)まいは至ってプリミティブ、一切の虚飾は排除されてさながら昭和のそれも初期の原風景を見るようである。
工事概要を見ると「建物の特徴」として「新校舎は、佐賀市の木材産地である富士町内の学校建設事業のため、地域風土を活かした木造校舎とし、内装の床や腰板等に木無垢材を活用した工法を取り入れている。校舎への木材利用の効果として、木質空間による子ども達のストレス緩和、居心地の良さなどをはじめ木の吸放湿性能による室内の湿気対策が期待できる」とある。
木材使用量については実にその総量の83%が佐賀市産材が占めているという。
無垢材をふんだんに使ったこの木質空間は子供達の情緒に数値では表せないものの確かに大きな影響を与えているとご案内頂いた井上英史教頭先生も強調されていた。
それは学校空間の研究で著名な愛知教育大学の橘田名誉教授のRCと木造との空間内における子どもたち達への影響についての比較研究論文にあるように木質空間の優位は明らかである。ただ情緒への影響と一口に言ってもそれは極めて抽象的な計測不能な領域でもある。
結露も無いという。木の持つ吸湿性のなせる技である。
またこの学校全体が杉の香りに満ちていたことも感動的であった。
自然の香りである。やはり木は生きている。富士校中学部、ここは自然いっぱいの快適な教育空間であった。少なくともIT革命の落とし子のような無機質で画一的な良い子ではなく心豊かで個性に富んだ良い子が輩出される予感がする。
とは言え、学校建築はコスト優先主義を背景に木造を忌避する傾向にある。
そこで自論の繰り返しになるが目の前のコストに捉われがちな近視眼的な考え方ではなく遥か遠くを見渡すパースペクティブな視座が重要だと考えている。
かつては重いと批判が相次いだ木製の机は以前に比べると随分軽くなっていた。
しかしその分天板の硬度は落ち傷付きやすくなった。そもそも木という素材は触れる事で温かさを感じるものだが。
傷防止用のビニールマットが天板の上に伏せてあった。
問題は重量と硬度の関係である。折り合いは付きにくい。
全てを満たすものなどあるはずもない。
不足は人が我慢するか補えば良い。
何れにしても学校空間の快適化は未来への重要なmilestoneである。
明るい未来の為に学校空間の快適化を急ごう‼
最後にこの度の取材活動にご協力いただいた佐賀市立小中一貫校富士校中学部の直塚裕典校長先生をはじめとした先生方、そして生徒の皆さんに心から厚く御礼を申し上げます。
関光放浪記第3章より