現場レポート:株式会社栗原木材店
2019年10月31日(木)
林業女子会@さがの馬場佐和子(ばば さわこ)です。
今日は唐津の株式会社栗原木材店さんへ見学に行って来た様子をレポートしたいと思います。
今回は林業女子会の新メンバー2名も加えて合計5名での見学となりました。
株式会社栗原木材店さんは創業60年。3代続く地元地域に根差した会社です。杭木を炭鉱に収める仕事からはじまり、木材業、製材業を営んできたそうです。3代目の息子さんの代からは木材業、製材業だけでなく、住宅販売、資材販売、住宅総合メーカーとしても事業の幅を広げたそうです。長年、木材と共に仕事をしてきた木、山、森の事を知り尽くした職人魂を持ったプロフェッショナルな会社さんです。
今回は製材所を見学させていただきながら、会長の栗原英一郎さん(以下栗原さん)から、佐賀の木材事情を通し、森の事、佐賀の山の現状、自然環境のことなど、熱いお話を伺って来ました。何か一般の方とは全く違う熱量を持ってらっしゃるのな? と感じるような素敵な熱さでした!! 栗原さんは佐賀県木材協会の会長や、林業・木材製造業労働災害防止協会の佐賀県支部長なども務めていらっしゃいます!
栗原会長
株式会社栗原木材店さんには現在では少なくなってしまった手引きの製材機があります。昔は、地域ごとに製材を担う木材店があり、直径60センチ以上の大木もたくさん製材していたそうです。今は、大型工場やメーカーなどで大量に製材されることが多いそうです。
製材機械
木材にはグリーン材、AD材、KD材の3種類があるそうです。
まずは、グリーン材。グリーン材は伐ったままの木材で乾燥をしていない木材です。
乾燥していないため、自然と少しずつ乾燥していく過程で木材が割れたり沿ったりすることが多いそうです。触ると水分をたくさん含んでいるためしっとりとしています。
一方、AD材、KD材は乾燥材になります。
AD材は「Air Dry Wood」の略称で、天然乾燥された木材です。木材を天然乾燥させるには半年以上の時間がかかるそうです。ただ、半年以上乾燥させても周りの大気中の湿度と同じところまでしか水分含有率を下げることができません。
KD材は「Kiln Dry Wood」の略称で、いわゆる人工乾燥材です。機械で短期間で乾燥させています。3種類の材の中では1番木材が動いたり暴れたりすることが少ないため、現在の建築業界ではこのKD材が主流として使われています。
木材が「動く」、「暴れる」というのは業界の用語のようなもの。木は乾燥させても生きていて、大気中の湿度や環境によって乾燥したり、また湿度を持ったりするため、加工したり、家や家具になってからも「動く」そうです。時には、思いがけず歪んでしまうほど動くこともある。そういうのを木が「暴れる」と表現するそうです。
木材が暴れないのならKD材が1番! というわけではない、ということを栗原会長は教えてくださいました。
今までの日本の製材業で主流だったAD材(天然乾燥材)は、木の性質が持つ「粘り」を保ち、何百年もの耐久性を保持できる強度を持っているのだそうです。木の性質を活かし、長く快適な空間を提供してくれる家を作るには、大工さんが手刻みで現場で少しずつ木材を加工しながら家を作る必要があるそうです。難しい技術ですし、時間がかかるけれど、素晴らしい日本の技術です。AD材の需要が減り、大工さんの仕事が減っている今の現状は少し残念に思いました。
栗原会長と共にこの日、製材所にかけつけてくださった佐賀県木材協会の山口さんも熱く語ってくださいました。
かけつけてくれた山口さんとメンバー
今回伺ったお話の中でも特に心を捉えた言葉は栗原さんの「家は森だ! 天然乾燥をした木は呼吸をして生きている。だから、AD材で作られた家は今も成長している」と言う強い言葉でした。
構造検査に合格しやすく、狂いの少ないKD材は一定の強度があり、短期間で商品化できるため、とても便利です。一方で、乾燥時に加熱されることで木材の細胞が死んでしまうため、本来の吸湿能力が低くなり、木の香りも艶もなくなるそうです。現代社会のことを考えると仕方ないと思う一方で、便利さの中から大切なものが失われているのでは? と感じました。
また、現在は木材価格が低迷し、ピーク時の1980年代に比べると丸太の価格は3分の1くらいにまで下がっているそうです。昔は一山の木材を売れば家を建てることができたり、子どもの結婚資金に充てていたそうです。
この木材の価値の低下と比例し山に入る林業家が少なくなり、それによる森林、里山の荒廃、治水、貯水の問題、土砂災害、河川の氾濫、頻繁に起こる洪水、全体に及ぼしている影響は甚大です。
大きな丸太
山を、木材を、どう活かすかは日本人のライフスタイルに大きく影響しています。日々、山が、製材所が危機的状況を迎えているのに、大切な木材の話、家の話はあまり一般の人には伝わりにくくまだまだ知らない事がたくさんあるのだろうなと感じました。
栗原さんの重みのある言葉の中から、自然に対する敬意と仕事で木材に携わってきた者の責任の重さが感じ取られ、今後の日本の森、自然環境に対する危機感、木材だけではなく社会全体で考えなければ解決しないことがあるのだと強く感じました。
この日は最後に林業女子会のメンバーと栗原さん、佐賀県木材協会の山口さんとの意見交換をしました。
林業女子会からは、公共建築物や大型建築物での木材利用を推奨したり、木材を利用した新たなビジネスも増やしていきたい! といった意見が出ました。
私個人的としては、大工職人さんの高齢化が進み、手刻みでの木材加工が出来る職人が減りつつある現在、木材の良さ、自然素材の良さを改めて見直して、再発見していく必要があると強く感じました。同時に、簡単なことではないかもしれませんが、新しいビジネスを育てるような画期的な取り組みが必要だな、とも思いました。
補足で気になったのは「脊振山系の杉はおび杉が多く、油っ気のある特徴を持っている!!」ということでした。今後のなにかのヒントになるのでは?